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東京地方裁判所 平成9年(刑わ)505号 判決 2000年5月31日

主文

被告人Aを懲役八年に、同B及び同Cをいずれも懲役二年八月にそれぞれ処する。

被告人三名に対し、未決勾留日数中各六六〇日をそれぞれの刑に算入する。

訴訟費用のうち、証人西廣妙子、同X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7及び同X8に支給した分の各五分の一ずつ、同X9、同X10、同X11、同X12、同X13、同X14、同X15、同X16、同X17、同X18、同X19、同X20、同X21、同X22、同X23、同X24、同X25、同X26、同X27、同X28、同X29及び同X30に支給した分の各四分の一ずつ並びに同X31、同X32に支給した分の各三分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

[罪となるべき事実]

被告人Aは、「未常識経済理論」あるいは「買いの経済」なるものを提唱して平成七年五月ころ発足させた経済革命倶楽部(以下、「KKC」といい、後記株式会社ケイケイシイとはほぼ一体のものであり、両者を含む意味でも「KKC」ということがある。)の会長であり、KKCの事務処理代行等を業務目的とする株式会社ケイケイシイの代表取締役であったもの、被告人B'ことBは、KKC保安部長兼同社常務取締役であったもの、被告人Cは、KKC営業開発部長兼同社常務取締役であったものであるが、KKCにおいては、その会員になった者が純金製の「平成小判」等の指定商品を購入することによって生じた利益は会員に還元されるので高額の配当を得られるとして、多数の者から申込金名下に金員を受け入れていたところ、

第一  KKC副会長兼同社取締役であったD'ことD、KKC会長副代理兼同社取締役社長等であったE、KKC会長代理兼同社取締役副社長であったF、KKC国際事業部長兼同社取締役副社長等であったG'ことG、KKC経済コントロール局長・管理本部長兼同社専務取締役であったH、KKC会長副代理・会長室長兼同社専務取締役等であったI、KKC営業統括本部副本部長兼同社常務取締役等であったJ'ことJ及びKKC顧問兼理事長であったK並びにKKCのインストラクター役を務めていたL及び同M'ことMらと共謀の上、真実は、会員から受け入れた申込金は、先順位会員への配当、KKC傘下の区部・支部への手数料及びKKCの運営経費等に費消され、他に早急に収益が得られる見込みもなかったことから、会員に対し確実に約定どおりの配当の支払や申込金の返還をすることはできなかったのに、これらの事情を秘し、ゴールドコース以上の会員になれば、短期間のうちに、拠出した申込金に加えて、コースの種別等に応じて二〇五万円等の配当を確実に得られるかのように装って、ゴールドコース等の申込金名下に金員を詐取しようと企て、別紙の犯罪事実一覧表(以下「別表」という。)番号1ないし17記載のとおり、平成八年二月二二日から同年四月二六日までの間、一七回にわたり、東京都港区赤坂<番地略>所在の三豊赤坂ビルKKC事務所において、被告人A、L及びMらが、X17ほか三一名に対し、別表中の「欺もう文言」欄記載のとおりのうそを言い、X17らをして、KKCが「未常識経済理論」等に基づいて前記平成小判の売買によって生じる利益を会員に還元しており、かつ、事業活動によって多額の収益を上げられるので、ゴールドコース等の会員となって申込金を納付すれば、後日、右のような高額の配当の支払や申込金の返還が確実に受けられるものと誤信させ、よって、同年三月一八日から同年五月二九日までの間、四八回にわたり、KKC事務所に現金を持参させたり、株式会社第一勧業銀行赤坂支店(港区赤坂二丁目五番一号所在)のKKC代表A名義の普通預金口座又は株式会社ケイケイシイ名義の普通預金口座に振込入金させて、もって、X17らを欺いて、ゴールドコース等の申込金名下に現金合計一億三八〇〇万円を交付させた。

第二  D、E、F、G、H、I、J、K、L及びMらと共謀の上、第一記載と同様に企て、平成八年四月一九日、KKC事務所において、被告人A、L及びMらが、X28に対し、「ゴールド会員の場合は、一〇〇万円支払うと、二〇日ごとに、合計五回で二〇五万円の利益がもらえる。国際電話のプリペイドカード事業を行い、西武がこれについて五〇億円前払いしてくれた。韓国の工場で温冷蔵庫を造るが、たくさんの注文が来ている。」などとうそを言い、X28を第一記載と同様に誤信させた上で同人からゴールドコースの申込金名下に現金一〇〇万円を交付させようとし、同人は同月三〇日に一〇〇万円をKKC事務所に持参して交付したものの、同人は第一記載のKKCにおける申込金の使途状況や配当の支払等の不確実性などの事情を看破していたため、結局のところ、詐取の目的を遂げなかった。

第三  D、E、F、G、I、J、K、L及びMらと共謀の上、第一記載と同様に企て、別表番号18及び19記載のとおり、平成八年五月八日及び同月一四日の二回にわたり、KKC事務所において、被告人A、L及びMらがX20ほか一名に対し、別表中の「欺もう文言」欄記載のとおりのうそを言い、X20らを第一記載と同様に誤信させ、よって、同月九日から同月三〇日までの間、五回にわたり、KKC事務所に現金を持参させて、もって、同人らを欺いて、ゴールドコース等の申込金名下に現金合計三四〇〇万円を交付させた。

第四  D、E、F、I、J、K、L及びMらと共謀の上、第一記載と同様に企て、別表番号20記載のとおり、平成八年五月三〇日、KKC事務所において、被告人A、L及びMらが、X31ほか一名に対し、別表中の「欺もう文言」欄記載のとおりのうそを言い、X31らを第一記載と同様に誤信させ、よって、同月三一日、二回にわたり、株式会社ケイケイシイ名義の普通預金口座に振込入金させたり、KKC事務所に現金を持参させて、もって、同人らを欺いて、G三〇ダイヤモンドコース等の申込金名下に現金合計五〇〇万円を交付させた。

[証拠の標目]<省略>

[事実認定に関する補足説明等]

一  被告人三名は、公判においては、いずれも、本件各公訴事実について、自分たちは人をだましていないし、だますことについて共謀もしていないなどと述べ、弁護人らは、必ずしもその趣旨が判然としない部分があるが、大要、①被告人らの行為については、KKCには相当の資産があり、債務超過の状態にあったものではなく、事業収益が上がっているものもあり、被害者らに対しても約束していた金銭の支払は可能であったから詐欺罪には該当しない、②被告人らに詐欺の犯意はなく、また、被告人らが詐欺を共謀した事実もない、③被告人Aの講演会場(以下「セミナー」という。)における講演の内容は、被告人A独特のユーモアに満ちた誇張にすぎず欺もう行為には該当しない、また、仮に欺もう行為であったとしても、被害者らは、被告人Aの講演内容からKKCの「後順位会員の申込金等を先順位会員の配当等に充てている」という実態を認識していたはずであるから未遂にとどまる。④被告人Cの行為は幇助犯に該当する、などと主張しているものと解される。

そこで、以下、関係証拠に基づき、前判示のとおり認定した理由を説明する。

二  KKCにおける会員からの集金等の実態

KKCにおいては、商品(ベーシックコースにおいては複数ある指定商品から一つを会員が選択することができるが、ゴールドコース以上のコースにおいては前記平成小判に限定されていた。)を購入すれば、それによりKKC側に生じた利益を会員に順次配当するというシステムを設定していた。具体的には、ゴールドコース以上のコースにおいては、会員は、KKCに対して、所定の申込金(一〇〇万円から五〇〇万円まで、一〇〇万円刻みのコースがあった。)を払い込むと、五回にわたり精算金の名目で配当を受けられることになっていたが、この配当開始日は、申込日に応じて個別の会員ごとに「登録日」として指定され、この登録日から二〇日ごとに五回にわたって、申込金額如何にかかわらず一口ごとに、一回に四八万円(もっとも、ある時期からは、「小判換金手数料」、「平和基金」の徴収名目で一部が差し引かれ、一回の精算金は四三万円あるいは四一万円となった。)の支払を受けられることになっていた。そして、登録日から一〇〇日目の五回目の支払が終了すると、申込金も全額払い戻されることになっていたほか、いずれのコースにおいても、被告人Aらがセミナー会場で被害者らに述べていたように、解約の意思表示をすれば申込金等を返還するとして中途解約も自由にできる旨うたっていた。しかし、多くの会員は、KKC側の勧めにより、「移行」ないし「ステップアップ」と称していた、配当金等の全部又は一部を受領しないで新たに上位のコースへの申込みをしていた。

三 KKCにおける資産状況等

1 保有資産

KKCの保有資産について見ると、警察がKKCから押収した入金票や領収書、株式会社ケイケイシイ名義の預金口座に関する銀行からの捜査関係事項照会回答書等を解明した結果、現金及び預金の流動資産の合計額は、平成八年一月末で約一三億円、二月末で約二一億円、三月末で約一一億円、四月末で最高額の約四六億円、五月末で約三二億円、KKC事務所に対して捜索が行われた前日の同年六月四日時点では約三〇億円であったことが認められる。また、右の現金や預金の流動資産のほか、固定資産、貸付金、仮払金を合計したKKCにおける現有資産の総額は、平成八年一月末で約二八億円、二月末で約四四億円、三月末で約四六億円、四月末で最高額の約八八億円、五月末で約七八億円、六月四日時点では約七七億円であったことが認められる(甲三七八。殊に添付の資料21、22等)。

2 会員等への支払金額

次に、会員に対して支払った精算額及び申込金元本の合計額を見ると、平成八年一月は約一五億円、二月は約二〇億円、三月は約二八億円、四月は約三二億円、五月は約三九億円にまで増加しており、このうち、会員に対する精算額だけでを見ても、平成八年一月は約一五億円、二月は約二〇億円、三月は約二七億円、四月は約三一億円であり、五月には約三七億円にも増加していた。また、区部・支部に対する契約手数料の支払金額も、平成八年一月は約一億二四二六万円、二月は約四億八七〇九万円、三月は約四億五五九〇万円、四月は約八億二三二四万円、五月は約八億〇一六四万円とほぼ増加の傾向にあったことが認められる(甲三七八。殊に添付の資料14)。

3 会員数の推移

最後に、KKCの会員数の推移について見ると、警察がKKCから押収したパソコンを解析した結果、おおよそ、平成八年一月末で四三七〇名、二月末で五七二〇名、三月末で七〇六〇名、四月末で一万〇三五〇名、五月末で最高の一万一七二〇名、前記捜索が行われた前日の同年六月四日時点でも一万一七二〇名であったことが認められる(甲三七一)。

四 会員に対する約定どおりの支払の可否について

1 右三のような資産状況下において、本件各公訴事実の犯行日である平成八年二月から同年五月までにおいて、KKCが支払約束の期日に会員からの要求に応じて直ちに精算金等を支払ったり、セミナーで強調していたように、解約申込みがあった場合に申込元金が返済できたか否かを検討する。

まず、KKCの保有する流動資産(現金及び預金)の合計残高の、KKCが会員に支払うべき月別の精算金等の総額(以下、いずれも累計)に対する比率は、3.24パーセントから8.4パーセントであり(甲三七八。殊に添付の資料21)、そのうち月別の精算金だけに対する比率は6.9パーセントから一八パーセントであって(甲三七八。殊に添付の資料22)、会員に返還すべき申込金元本総額だけに対する比率も5.9パーセントから15.8パーセントにすぎず(甲三七八。殊に添付の資料21)、支払不可能であることが明白である。

次に、流動資産に固定資産、貸付金、仮払金を合計したKKCの保有資産全体の総額との比率を見ると、それでも、精算金及び申込金元本に対しての比率は、12.4パーセントから16.2パーセントであり(甲三七八。殊に添付の資料21)、そのうち、月別の精算金だけに対するものでも27.4パーセントから34.6パーセントであって(甲三七八の添付資料21からの計算結果)、また、会員に返還すべき申込金元本総額だけに対するものでは、22.6パーセントから30.4パーセントにすぎない(甲三七八の資料21)から、固定資産等が直ちに現金化できたとしても、支払不可能であることが明白である。

そうすると、平成八年に入ってからは、KKCが会員に支払うべき月別の精算金、申込金元本の総額は、総保有資産の六倍を優に超えていたのが常態であって、KKCの会員に対する精算金や申込金元本の支払約束、あるいは解約時に直ちに申込金を返還する約束は、全く履行不能であったことが明らかである。

2 このような状況下において、KKCが会員に対して勧誘の際に述べていた、会員からの配当の支払請求や解約申込みに応じて即座に支払うためには、KKCにおいて投資していた各種事業から前記の不足額を補うに十分な利益が既に上がっていたことが必須の前提条件となる。しかしながら、KKCの経理を担当していた証人西廣妙子や事業部や総務部で働いていた証人岡田安弘の各証言等からも認められ、また、被告人らがいずれも自認しているように、KKCが手掛けていた事業は、未だ利益の上がる状態ではなく、現実にKKCが会員に約束していた多額の配当金の支払等の不足額を補うに十分な利益を上げていたような事業は皆無であった。もっとも、KKCに対する摘発後に、結果として若干の利益が上がった事業があったこともうかがわれるものの、本件各公訴事実の犯行日ころの時点での支払担保となる資産とは到底いえない。

3 ところで、「買いの経済」あるいは「未常識経済理論」等と称している被告人Aの独自の理論は、結局のところ、会員から申込金を集めて、配当を開始させる基準日となる「登録日」を先延ばししたり、配当金を受け取らずに、それを利用してKKCの用意する別のコースに申し込めば最終的な受取額は大きくなるなどと述べて配当金の支払や申込金の返還を遅らせることによって、KKCから現金流出までの時間を稼ぎ、現実の破たんを先延ばしし、その間に事業投資等を行い収益を上げるとともに、将来的には配当額を低下させて、何とか支払い切ることを目指すというものにすぎず、事業収益が上がるまでの間に、配当の支払を要求されたり解約が出れば、支払不可能であることに変わりない。被告人Aは、公判において、このことを自認した上で、自分の経験からすると、申込金を支払った者は、将来受領できるであろう多大な利益のために絶対に解約はしないものであるなどと述べるが、それは、単に被告人Aの希望的な観測にすぎず、KKCが破たんしないという理由には到底なり得ない。

なお、被告人Aは、自己の買いの経済理論も、最終的には、「マルユウシステム」に行き着くとし、これは、例えば「ハッテトック」という靴底用の補強材等を売ることによって得た利益で配当を実現するというものと解されるが、結局のところ、事業収益で配当をするということにほかならず、これも前記事業と同様に、確実に商品が売れて配当原資になり得るなどという保証は何もない。被告人Aは、同人作成の陳述書や公判供述において、原価や差益がいくらなどと、億単位以上の数字を挙げているが、全く根拠のない妄言でしかない。

五  被害者らに対する勧誘状況等

1  右四に認定したところからも明らかなとおり、真実は、KKCにおいては、会員から受け入れた申込金は、先順位会員への配当、KKC傘下の区部・支部への手数料及びKKCの運営経費等に費消され、他に早急に収益が得られる見込みもなかったことから、会員に対し確実に約定どおりの配当の支払や申込金の返還をすることはできなかったものである。

2  それにもかかわらず、被告人らは、会員を勧誘する際、前記のようなKKCの実態や資産状況を隠ぺいし、平成小判等の商品を買うことによって会員に利益が上がる旨を「未常識経済理論」等と称して説明するとともに、各種事業投資により莫大な利益を上げている旨偽り、あたかも申込金の返還も高額の精算金の受領も確実になし得るかのように装っていた。殊に被告人Aは、セミナーにおいて、「KKCはいつまででも続く。」「手元には六〇億円がある。これは皆さんから預ったお金とは違う。KKCが破たんしないのは、この金があるから。この金で事業をやっている。」「キャンセルのキャンと言うだけで申込金を返す。」「ウイリアムテレコムは私の会社であて、世界で使えるカードを売る。阪急は決まっている。西武の一回の注文は五〇億、キオスク、JTB、東急からも注文が来ている。」「がっぽがっぽもうかる」などと述べていた(甲二六)ばかりか、公判でも、「会員を不安にするようなことは言わなくていい」旨述べて、KKCの真実の姿を説明することなく勧誘していたことを自認している。

六  被害者らの誤信について

1  弁護人は、およそ、被害者とされている者は、被告人Aが「金がぐるぐるぐるぐる回っている」などと述べていたこと(甲四七七)や、被告人Aのセミナー会場での講演を聴いた当時はその講演を人柄を表すものとして積極的に受け止めていたことなどから、被害者らが被告人Aらの講演により錯誤に陥ったものということはできないなどと、前記のとおり主張している。

2  しかしながら、前記三ないし五で検討したように、被告人Aらの講演内容はその多くが虚偽である上、いずれの被害者(ただし、後記4の被害者X28を除く。)も、被告人Aらの講演により誤信していたと優に認められる。すなわち、別表記載の被害者らは、表現に差こそあれ、「KKCの運営費や先順位会員への配当には、ねずみ講のように後順位会員が支払う現金が支出されることはないと思った。」「Aの講演を聴いて、キャンセルのキャンと言えば申込金は返還されるというので、自分たちの申込金は、配当等に使われていないと思った。こんなに安全で確実な利殖はないと思っていた。」「KKCには有望な事業投資がいっぱいあり、現に利益が出ているか、もう間もなく莫大な利益が上がると聞き、間違いなく支払ってくれるものだと思った。」「Aは平和を願う偉大な人物で信用できると思った。」などと口々に述べているところ、被害者の中には、時間の経過により記憶が薄れていて、具体的な講演内容までは正確に再現することができない者がいるが、その証言内容については特に信用性に疑いがあるものはなく、十分信用できるというべきである。

確かに、弁護人が主張するとおり、被告人Aの講演において、まるで後順位会員の申込金を先順位会員の配当に回していることを述べたとも解されるような部分があることは事実であり(甲四七七)また、事業投資についても、もうすでにもうかっているという話はしていない旨の証人Lの証言もある。しかし、その講演全体を通してみると、セミナー会場には多数のKKC側の人物も出席し、会場の座席はほとんど埋まっているような状態にあり、しかも、被告人A自ら、「がっぽがっぽもうかる」と述べたり、「五〇億円で決まった。」などと破格の金額を引き合いに出すなどして、自己が考案した「買いの経済」あるいは「未常識経済理論」は、一般人にはすぐには理解できないような難解な理論であるがいずれは常識になるものであり、ねずみ講とは異なるとか、また、被告人Aにはノウハウ料が六〇億もあるなどKKCは資金が潤沢であること、いつでも解約でき、申込金はすぐにでも返還すること、他の幹部らが、被告人Aはイギリスのサッチャー元首相に競り勝ってピースコープ世界平和賞を受賞したすばらしい人物であるなどと説明しているのであって、このような説明を聞くなどした被害者らは、被告人Aの言葉を逐一冷静に理解する状況になかったことは明らかであるばかりか、まさにLも指摘しているように、まるでKKCが莫大な利益を上げているかのように思いこみ、セミナー会場でのL等の説明を聞いて、それまでに抱いていた多少の不安や疑念がかき消されてしまっていることも認められる。これが被害者の落ち度と評価すべきかについてはともかくも、被害者らが被告人Aらの講演により錯誤に陥っていたことを否定することにはならない。

3  なお、被告人Aは、公判において、「契約が決まったとか、お金をもらったとか、とにかく、もし何かあったら、セミナー会場の後ろに張り出すからと言っていた。」などと供述して、KKCの実態を掲示していたので、被害者らは誤信していないはずであるという意味に解される弁解をしているところであるが、その真偽はしばらくおくとしても、被害者らが、被告人AのKKCには莫大な利益がある旨の講演にほんろうされ、また、セミナー全体の雰囲気等にも影響されて、その内容が真実であるとの印象を強くしていたことは明らかであって、掲示程度のことをしていたとしても被害者の誤信を解き、実態を説明していたと評価することは到底困難であるというべきであり、前記誤信に関する認定を左右するものではない。

4 他方、判示第二の事実(平成九年二月二四日付け起訴状別紙犯罪事実一覧表番号12のX28を被害者とする公訴事実関係)について、X28は、公判において、会員の申込金をKKCが利殖等によって増加させてその増加分を配当に回すこともあるかのように供述する一方で、入会の前後を通じて、配当金は後から入会した会員の申込金が充てられており、KKCで行っている事業からの収益は配当に回されるものではないと考えていた、入会者が減少したり、あるいはなくなると配当ができなくなるが、自分が配当を受け取り始める一年後くらいならば、まだ新たな入会者が途切れることはなく、配当は十分可能であると考えていた旨証言している。

X28の右の証言は、これを子細に検討すると、同人が記憶を喚起した上で当時の思いを誠実に吐露したものと評価できるところ、同人は、本件公訴事実中の欺もう内容や誤信の内容を構成する重要部分であるところの、「KKCにおいて先順位会員への配当は後順位会員の申込金を充てていた実態」を看破していた可能性があり、同人が右の点に関して錯誤に陥った上でそれに基づいて申込金をKKCに交付したと認めるには、なお合理的な疑いが残るというべきである。したがって、同人に対する被告人らの罪責については、詐欺未遂の範囲内にとどまるものと認定するのが相当である。

七  被告人らの共謀について

1  被告人Aについて

被告人Aは、捜査段階から公判に至るまで一貫して、KKCには約定どおりの支払を現実にする能力がなかったことを認識していた旨供述しているところである。すなわち、捜査段階においては、「KKCは、会員が支払う申込金が他の会員や支部・区部にぐるぐる回ることによって成り立っている組織であった。会員にステップアップしてもらうことで、KKCは支払不能の状態に陥ることを防げる。登録日制度を設けて、出金の額を制限し、現金の流出を遅らせ、支払不能の状態に陥らないようにしていた。登録日については、申し込む人が多く、人数に制限があり、待っている人がたくさんいるので、登録日を設けているなどとセミナーでは説明していた。」などと述べている(乙六、九、一七ないし二二、三一)ほか、公判においても「解約が一遍にわっと来ると支払不能になってしまう。キャンセルされないようにシステムを作らなくてはいけないのが、買いの経済のノウハウだ。パンクさせちゃしょうがない。会員から預ったお金を前の会員の配当や元金の支払に回すものであったが、セミナーではその説明はしていない。」「KKCの事業はうまくいっておらず、売上げも上がっていなかったが、セミナーではそういう現実の話はしていなかった。会員に安心を与えることが第一だった。うそも方便と言うとおり、セミナーの参加者には、安心して入りなさいと話していた。」などと供述しているのであって、虚偽のことを述べて、申込金を集めていたことを認めている。また、自分がKKCの人事権を掌握し、自己が興したKKCを発展させるために役員を任命したり(乙二等)、役員会において、出席した役員らに対し、事業投資は会員獲得のための「はったり」として効果があると述べるなどしていたもので(証人鬢櫛一三の証言、乙三二八)、結局のところ、被告人AとKKC幹部らとの間には、詐欺についての黙示的な共謀があったことは明らかである。

なお、被告人Aは、KKCのシステムは自分しか完全には分からず、未だに完全なものを幹部らにも示しておらず、自分としては、会員には支払請求をとどまるように仕向け、コースのステップアップをさせ、次第に払込金額を増やすとともに、各期日ごとの配当金額をどんどん減らしていくことにより、必ず回せる(支払えるの意味)ようになるなどとも弁解しているが、本件各犯行の時点で、配当の支払を求められたりすると配当できないものである以上、詐欺罪が成立することに変わりない。

2  被告人Bについて

被告人Bは、公判において、「被告人Aはセミナーでは『ほら』を吹いていたが、うそはついていない」などと述べて詐欺の犯意及び共謀を否認し、弁護人も、被告人Bは、KKCの資産額、支払予定額に関する情報は全く知らず、また、配当額を将来的に減額していくというシステムについても被告人Aから知らされておらず、したがってKKCの資産や構造の実態については何ら認識できなかった旨主張している。

しかしながら、被告人Bは、捜査段階においては、いったん否認したものの、逮捕翌日の弁解録取時において、「KKCのゴールドコース以上のコースでは、会員ごとに見ると、出金額が入金額を大幅に上回り、会員が支払った申込金を先に申し込んだ会員の配当金に充てているだけで、何の利益も生み出していないから、登録日をコントロールしている間に、入金額と出金額の差額をだんだんと縮めていきながら、事業から収益を上げて会員に配当するしかないと思っていた。Aが言っていた事業は実際には計画が進んでおらず、収益が上げられないだろうと思ったし、Aはセミナーでうそを言っており、会員に約束どおりの配当をすることはできないだろうと思い、心配していた。」などと述べて犯行を認め(乙三五四)、それ以降は、「KKCでは、収入は会員の払う申込金しかなく、その申込金から、先順位会員への配当金、区部・支部への手数料、家賃、人件費等の必要経費を払っており、KKCに残っている金額は会員の申込金の総合計を常に下回り、元本割れしていたために、会員に対して、約束したとおりの支払をすることができないことは当初から分かっていたし、登録日やステップアップの制度がKKCの出金額を抑え、KKCの破たんを先送りするためのものであることについても、Aから聞いて分かっていた。Aはセミナーで真実を説明していなかったが、それは、より多くの人に入金してもらうためにうそをついているのだと思った。Aの買いの経済や未常識経済理論は、会員を信用させ、申込金を支払わせるためのまやかしの理論であり、KKCでは、Aの指示を受けて私を含めた役員がそれぞれの任務を遂行することによって、組織的に申込金をだまし取っていた。KKCを現実に破たんさせないためには、事業に投資して収益を上げるしかなかったが、どの事業案件についても収益が上がっておらず、将来収益が上がる見込みもなかったので、会員への高配当を維持することはできないと思っていた。」(乙二五五、二五六)などと述べて一貫して詐欺の犯意と共謀を認めていたものである。

これに対して、被告人Bは、公判で、自白調書については、「取調官からの『あんたがだましたわけではない』という言葉によって、内容が真実でない調書にも署名、指印してしまった」などと供述している。確かに被告人Bの調書の中には、同人が公判で述べるとおり「KKCを運営するための各コースの入金出金に関していうと、申込金を集めるための新しいコース設定や、出金を抑えるための登録日と登録人数の設定といったことも、Aが決めていました。」との文章の末尾が「決めていたと思っていました。」という表現に訂正されているものもある(乙二五六)が、このことはまさに被告人Bが任意に供述しその要求により訂正されたものと認められるし、供述調書の中には被告人Bに読み聞かせではなく閲覧させた上で署名させているものも数多く存在する(乙二五二、二五三、二五四、二五六、二五七、二五八、二五九、二六〇、二六三、二六四、二六五、三五五、三五六)ほか、暴力団員や右翼とのもめ事の際には本当は怖かった、KKCを逃げ出したいぐらいであったという話や、被告人Aに内諸でその行状について暴力団員に謝罪したこと(以上、乙二五二)などが具体的に供述されているのであり、供述調書の任意性や信用性に何らかの問題があるとは解されない。他方、前記公判供述の方は内容的に不合理であり、信用することができない。したがって、被告人Bは、具体的な経理の状況までは分からなかったとしても、およそKKCにおいて会員の要求どおりには配当ができない状況にあることは十分理解していたものというべきである。

そうすると、被告人Bは、被告人AがKKCにとってはカリスマ的な存在として不可欠であることを認識した上で、被告人Aの警備等を担当し、役員連絡会議に出席していただけでなく(証人Lの証言)、役員会でも「(中国宜昌市ビルに関して)中国の事情が不明です(乙二五八)」「いつも心に引っ掛かるし、皆さんに聞いてもいつもはっきりとした答えが返ってこないのがITTとアセアンなんですよ(甲四五六)」などと、積極的にKKCの事業内容にまで踏み込んだ発言をしていたことが認められ、その行動状況等に照らすと、被告人Bには被告人Aらとの間に、同人が中心となって行っていたKKCの会員からの金集めに加担し、自己の役割遂行によりこれを全うさせる旨の黙示の共謀が成立していたことは明らかであって、詐欺の共謀共同正犯が成立するものというべきである。

3  被告人Cについて

被告人Cは、公判においては、詐欺の認識がなかった旨供述し、弁護人も、被告人Cに詐欺罪が成立するには証拠が不十分である旨主張している。しかし、被告人Cは、逮捕当初から、「未常識経済理論は、Aが会員をだますために考え出したうその理屈であり、会員とKKCの間の取引によって利益が生まれることはなかった。KKCでは、会員が払い込んだ金を古い会員への配当金に回していたのであり、そのことは私も他の役員も十分に承知していた。KKCに入る金は、会員が払い込んだ金しかなく、それに対し、KKCから出る金は、会員に対する配当金、事業投資資金、貸付金等があったので、KKCに残っていた金はわずかであり、そのままKKCを運営していけば、早晩そのシステムが破たんすることは分かっていた。」(乙三五〇)などと供述し、さらに、「Aの買いの経済や未常識経済理論が会員から申込金をだまし取るためのまやかしの理論であることは、Aから説明を聞いてすぐに分かったが、水を差すような指摘をして追い出されると、食うや食わずの生活に逆戻りになるので、黙っていた。KKCのシステムが、ねずみ講そのものに当たるかどうかは分からなかったが、少なくともねずみ講まがいのやばい組織であると思っていた。セミナーの参加者をだまして申込金を集めるには、KKCがしっかりした信頼できる組織だと信じ込ませる必要があったので、私たち役員が役割を分担して、見栄えのよい申込書やパンフレット等の小道具の準備、セミナー会場の設営、演出、申込手続、KKCの資金管理等を行い、Aを側面から支援し、セミナー会場に集った参加者等をだましていた」(乙三二八)などと、一貫して詐欺事実を自白していたものである。

被告人Cは、平成七年一二月ころのITT事業に対する期待について、およそ捜査官が使わない音楽用語のだんだん弱くなるという意味の「ディミヌエンド」という言葉を使った供述をしたり(乙三四〇)、「Aがタイ人女性に熱を上げたが暴力団員が出てきて結局別れさせられた話」を出した上で、被告人Aが経済革命を起こすなどと言うのを聞いた際に、「タイ人のママに入れ込んだ挙げ句やくざに脅かされて別れさせられた男がよく言うよ」(乙三二八)などと、非常に臨場感に富む具体的な供述をしているところであって、十分に信用することができるというべきである。

これに対して、被告人Cは、公判において、詐欺の犯意や共謀を否認するとともに、右自白調書についても、「最初は何日間も否認していたところ、取調官から『認めれば執行猶予だが、認めなければ刑務所行きだ』などと脅され、認めざるを得なかった、自分が話してもいないことが書かれた供述調書に署名させられた」などと供述している。しかし、公判において、捜査の当初から自白していることを裏付ける弁解録取書について説明を求められるや、「逮捕される前に何人もの警察官に取り囲まれて脅かされ、逮捕されたときは認めたということだ」などと供述し、その一方で、「最初の一〇日間から二〇日間くらいは警察官のやっていることを信頼していた」などと矛盾した供述をしているほか、検察官に対する供述調書の、例えば、乙三五一号証の「検事さんには、取調べの際、何度となく、記憶にある範囲で正確に答えて下さい、また、できれば、記憶の濃淡も答えて下さいと言われたので、その点を心がけて真実を正直に話したし、思い出せないことは、申し訳ないなと思いつつもその旨正直に答えました。」という記載部分について、その理由等の説明を求められると、「そういうやりとりがあったことは事実だが、できあがった調書は別だ」などと全く理解不可能な弁解に終始しているのであって、前記否認供述は信用できないというべきである。

そうすると、被告人Cについても、KKCのセミナーの会場設営や司会をしたり、Eの指揮の下、セミナーのインストラクター養成講座を実施したりしていたこと、新区部支部会と呼ばれる会合や役員連絡会議に単に出席していただけでなく(証人Lの証言)、平成八年五月二日の役員連絡会議において、「三日からゴールデンウィークになりセミナー参加者が少なくなるおそれがあるので、KKC本部内に区部、支部を持っている人は会員さんの動員を求めたい。会長の前でこんな話はしたくないのですが、是非お願いします」などと積極的に発言したこと(甲四一四、乙三二七)や、司会者として、被告人Aの登場に合わせて「たいへん長らくお待たせいたしました。二〇〇〇年に一人誕生する大聖人、A会長でございます。皆さんどうぞ盛大な拍手でお迎えください。」などと述べていたこと(証人Eの証言、乙三三一)が認められるのであって、その行動状況等に照らすと、被告人Cには被告人Aらと間に、同人が中心となって行っていたKKCの会員からの金集めに加担し、自己の役割遂行によりこれを全うさせる旨の黙示の共謀が成立していたことは明らかであって、詐欺の共謀共同正犯が成立するものというべきである。したがって、被告人Cの行為は幇助犯にすぎないとの前記主張は採用の限りではない。

なお、被告人Cは、KKCの顧問弁護士からKKCの活動は合法である旨の助言を受けていたとか、顧問弁護士がいるから合法であると信じていたなどと弁解している。しかし、この点については、KKCの顧問弁護士が、種々の問題を指摘して法律上の問題点がある旨の警告を二回にわたって発していたことが明らかであるから、そのような助言があったとは到底認められないし、また、被告人Cは一貫して「KKCはやばい組織だと思っていた」と供述していること(乙三二八)に照らすと、合法である旨信じていたとの弁解も信用できない。

4  家族等をKKCに入会させていたことについて

被告人B及び同Cは、公判において、「自らも申込金を払っていたほか、家族や親戚にも勧めてKKCに入会させたが、これは、一般会員と同様に、被告人Aの話を信じ、KKCが破たんするとは思っていなかったからである」などと述べている。

しかし、KKCに入会したという事実は、他の共犯者が認めているように、KKCが早晩破たんせざるを得ない自転車操業の実情を看破しながら、現実の破たんまでの間にいち早く高額の利益を得ようとして積極的に入会していたという事実と矛盾するものではなく、ただちに、家族等をKKCに勧誘していたことをもって、KKCが破たんするものとは知らなかったとはいえない。

かえって、被告人Bは、「KKCでは、会員が払い込んだ申込金を配当金に回している自転車操業を行っているだけであるというKKCの実態が分かり、高配当を約束しているからにはいずれ配当を支払えなくなり破たんするだろうということも分かっていた。しかし、Aが登録日を考えたり新しいコースを考えて入金を確保するなどしてくれれば、直ちに現実的に破たんすることはなく、しばらくは資金繰りが回るだろうという希望的観測をしていたし、現にこのころは入金も順調だったので配当がもらえるだろうと思い、申し込むことに決めた。」(乙三五六)などと述べており、他の共犯者と同様の認識であったことが認められ、また、被告人Cも被告人Aに対し「何とか役員だけでも登録日を早く打ってほしい」旨懇請していたこと(乙三二二)に照らせば、他の共犯者と同様の認識であったと強く推認される。いずれにしても、家族等をKKCに入会させていたことが、被告人B及び同Cの詐欺の犯意を否定する事情にはならないというべきである。

5  付言すると、KKCにおいては警察に摘発されるまで会員に対して約束した支払が滞りなく行われていたことが認められるが、現実に多数の会員から配当の支払及び解約を申し出られると、これに応じることができないという状況を被告人らが認識していた以上、これまで支払が滞りなくできたという事実は、被告人らに関し、本件の詐欺の犯意やその成立を否定することにはならない。

八  欺もう文言のうち、配当金の支払間隔について

平成九年二月二四日付け起訴状別紙犯罪事実一覧表の番号21、23及び24の「欺罔文言(番号22以降の「欺罔行為」とあるのは、番号20までの記載からして「欺罔文言」の誤記と思料される。)」については、配当金の支払間隔に関して、「登録日から二〇日ごとに(番号21、23及び24)」、「二〇日を一回として(番号23及び24)」とある。しかし、被告人Aは平成八年五月一四日実施のセミナーにおける講演で、登録日後の配当金の支払間隔について、「平成八年五月から『三〇日』になった」旨を明言しており(甲四四〇)、同月八日に講演を聴いたX20も検察官に対し、登録日から五回目の支払日までの期間につき「一五〇日間」と供述しており、その供述調書にはその旨を明らかにした会員控え用の支払明細書の写しも添付されている(甲二四)から、平成八年五月から「三〇日」になったことが明らかであるから、その旨認定した次第である。

九  公訴権濫用の主張について

弁護人は、本件起訴につき公訴権濫用であるかの如き主張をしているが、検察官が本件において訴追裁量権を逸脱していないことは明らかであって、右主張は理由がない。

[法令の適用]

被告人三名の判示第一、第三及び第四の各所為は、いずれも被害者ごとに刑法六〇条、二四六条一項に、判示第二の所為は同法六〇条、二五〇条、二四六条一項にそれぞれ該当するところ、別紙犯罪事実一覧表番号2、3、10、11、13、16、17及び20は、いずれも一個の行為が数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条によりそれぞれ一罪として、犯情の重い(番号2、3、10及び16については、最も重い)X33(番号2)、X30(番号3)、X3(番号10)、X8(番号11)、X21(番号13)、X22(番号16)、X18(番号17)及びX16(番号20)に対する各罪の刑で処断することとし、以上はいずれも同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、各被告人につき犯情の最も重い別表番号16の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人Aを懲役八年に、被告人B及び同Cをいずれも懲役二年八月にそれぞれ処し、被告人三名に対し同法二一条を適用して未決勾留日数中六六〇日をそれぞれその刑に算入することとし、訴訟費用については刑訴法一八一条一本文により、そのうち、証人西廣妙子、同X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7及び同X8に支給した分の各五分の一ずつ、同X9、同X10、同X11、同X12、同X13、同X14、同X15、同X16、同X17、同X18、同X19、同X20、同X21、同X22、同X23、同X24、同X25、同X26、同X27、同X28、同X29及び同X30に支給した分の各四分の一ずつ並びに同X31、同X32に支給した分の各三分の一ずつを各被告人に負担させることとする。

[量刑の事情]

一  本件は、KKC及び株式会社ケイケイシイの幹部らが共謀の上、組織的に、被告人Aが考案したというゴールドコース等の会員になれば、拠出した申込金が保証されるほか、短期間のうちに高額配当が確実に得られるなどと虚偽の事実をうたい文句にした宣伝活動を行い、申込金名下に、三六名という多数の被害者から総額一億七七〇〇万円もの金員を詐取した、という事案等である。

二  KKCは、前記のとおり、システムの構造上、早晩経済的に破たんを免れないものであったにもかかわらず、被告人Aの巧みな話術に加え、インストラクターと呼んでいた説明役に元アナウンサーを起用するなどし、「未常識経済理論」等と称するまやかしの理屈をもっともらしく説明して、その実態をカムフラージュした上、都心に構えた事務所のセミナー会場に各事業の完成予想図のパネルを張り出すなどして、各事業があたかも順調に進行しており、それによって多額の収益を上げられるかのように装い、あるいは、世界平和を唱え、被告人Aが国際的に著名な賞を獲得したかのような新聞記事を配布するなどして同人の個人的信用を作出し、さらには、KKC自体も単なる営利団体ではなく、崇高な理念を持つ信頼できる団体であるかのように装って、多額の金員を取得していたものであって、KKCそのものがまさに詐欺を目的とした組織であったというべきである。

また、KKCは、このようにして、強制捜査を最初に受けた平成八年六月までに、関東を中心に全国に二六の区部、三六九の支部を設け、合計一万一七〇〇人以上の会員から合計三四六億円余りの金員を集めるに至っており、本件各犯行は、このようなKKCの活動の一環をなすものであって、極めて大規模な組織的かつ営業的犯行である。また、その会員の勧誘方法は、被害者らの利欲的な心情を利用し、冷静な判断をする余裕を与えず、あるいは、次々と新たなコースを設定して資金の流出を防ぎ、少しでも長く破たんを先延ばしする手口を使っており、極めて巧妙である。

本件被害額は、前記のとおり甚大である上、KKCの破産手続によって被害額の約一割に当たる配当がなされたものの、今後それ以上大幅に被害が回復される見込みはない。被害者らの中には、なけなしの預貯金を引き出したり、あるいは親族や金融機関から借入れをして申込金に充てた者も少なくなく、その被害は深刻であって、これらの諸点に照らすと、犯情は悪質である。加えて、この種事犯は、模倣性が強い上、一度敢行されたときには広範かつ甚大な被害をもたらす性質のものであることも、量刑上軽視できない。

被告人らは、このような実態のKKCに幹部として身を置き、被告人Aを中心に、本件各犯行に深く関与していたものである。

三  次に、各被告人の個別事情について検討する。

1 被告人Aは、以前「しあわせ会」なるものを設立していわゆるマルチ商法を行っていた経歴があり、同会が行き詰まった後の平成七年五月ころKKCを創設したものである。そして、KKCが警察から摘発を受けた後も「ユニバース」と称するKKCとほぼ同様のシステムの組織を作り、「救済移行コース」と称して再び現金を集めようとするなど、この種事犯に対する顕著な親和性が認められる。

被告人Aは、自ら未常識経済普及セミナーと称するセミナーを主催し、会長講演として、被害者らを完全にだますための不可欠かつ強力な勧誘活動を実践していただけでなく、KKCの人事、事業投資、システムの策定及び確定、コースの新設及び変更等、資金の管理、その使途に至るまで、KKC会長として、KKCの全権を掌握してその運営全般を統括していたものである。

講演内容を見ると、まやかしの理論であるにもかかわらず、「ノウハウを盗まれないようにわざと分からないように話している」などともっともらしく述べ、前記のように次々と新たなコースを創設したり、登録日制度等を設定して資金の流出を防ぐ様々な方策を編み出したりしていたものである。

このように、被告人Aは、KKCのシステムを考案して犯行を最初にたくらんだだけでなく、KKCそのものが同人の個人的色彩の極めて強い組織であって、同人の存在なくしては、本件詐欺事件は全く考えられなかったのであり、右システムの虚構的な構造、しあわせ会からKKCへと続く経歴等を考え併せると、検察官が論告で指摘するように、同人を「希代の詐欺師」というのも決して過言ではない。

被告人Aが得た利得額を見ると、証拠上明らかになったものだけでも、給与として平成七年一〇月以降毎月三〇〇万円を受領し、平成八年二月及び同年三月は二一六万四一七〇円ずつ、同年四月及び五月は二一一万七五一五円ずつを銀行振込により受領していた(乙三八)だけでなく、個人的な借金返済のため、実弟の三郎に合計七二一万円を(うち一〇〇万円は現金交付で残りは振込。乙三六)、元の内妻に三〇〇万円を、しあわせ会の被害者に六六四六万円余りを(乙三六)をそれぞれKKCから支払わせ、その他、個人的な衣服等に一五三万円余りを、めがねに二〇六万円(乙三七)をKKCから支払わせており、その利得額は極めて多額に及んでいる。

そして、被告人Aは、捜査段階から広範に至るまで、現実の配当及び申込金の返還並びに解約申込みがあった場合には、支払い切れないことはもちろんであるが、実際にはそうならないようにするのがポイントであり、自分はその方法を考え出したから、解約や配当の支払要求は絶対にないなどと強弁し、開き直りの態度に終始しているばかりか、自分に任せれば今回の被害者救済は拘束を解かれた後半年でできるなどと豪語し、あるいは、KKCが破たんしたのは、警察が捜索を実施したからであるなどと供述するなど、全く反省の態度が見られない。

加えて、被告人Aには、昭和四九年一〇月とかなり以前のものであるとはいえ、傷害罪により執行猶予付きの懲役刑に処せられた前科などもある。

そうすると、被告人Aに関する情状はまことに悪質であり、その刑事責任は、他のKKC役員とは比較にならないほど、群を抜いて重いものがある。

2  被告人Bは、かつて被告人Aの主宰する「しあわせ会」にも参画したことがあったところ、同人に誘われて平成七年九月ころKKCにも参加し、KKCの保安部長兼常務取締役となり、以降被告人Aの信奉者となって、右翼関係者や暴力団関係者から被告人Aの身を守るために、その警護を主として担当したほか、役員会においても積極的に発言をするなど、KKCにおいて重要な役割を果たしたほか、警察が捜査に動き出すや情報収集に従事していたことも認められる。

被告人Bは、入会時に五〇万円、その後平成七年一〇月から平成八年五月まで給料として毎月七〇万円、平成七年一二月に賞与三〇万円の合計六四〇万円を受領していたほか(乙二五六)、結局は追い金としてKKCに支払ったため最終的には手元に残っていないものの、KKCに自己及び妻名義で入会したことによる配当金等合計三一六万円を受領したこともあったものである。

そして、被告人Bは、捜査段階では自己の罪責を自認していたにもかかわらず、公判においてはこれを否定し、取調官から自分はだましていないと言われたため認めただけだと供述したり、個人的な利得を意図したことは全くなかつたなどと強弁したり、反省の態度が見られない。

以上のとおり、被告人Bについても情状は悪質で、共犯者として既に判決を受けているKKC役員と同程度、又はそれ以上の重い刑事責任は免れないというべきである。

3  被告人Cは、かつてピアノの弾き語りをしたり、スナックを経営するなどして生計を立てていたものであるが、そのスナックに出入りしていた被告人Aに誘われ、平成七年七月ころからKKCに参加し、同年一〇月ころからKKC営業開発部長兼常務取締役として(乙三三一)、その運営に携わっていた。

被告人Cは、セミナーの司会者として自ら被告人Aのことを「二〇〇〇年に一人の大聖人」などと紹介するなど積極的に活動していたほか、KKCのセミナー会場の設営をしたり、役員会においても活発に発言し、さらには共犯者のEの指揮の下、セミナーのインストラクター養成講座をも担当するなどして、KKCにおいて重要な役割を果たしていたとともに、被告人Aを種々補佐していたことが認められる。

また、被告人Cは、KKCから給与等として合計七〇〇万円、報奨金五〇万円を受領していたほか、自らKKCの支部を開設して紹介手数料四八万八〇〇〇円を受領し、利得総額は七九八万八〇〇〇円に及んでいる。そして、被告人Cは、前記のとおり、「役員だけでも登録日を早く打ってほしい」などと要求していることも認められ、KKCの破たんを十分に意識した上で、利得確保の意欲が非常に強かったことがうかがわれる。

なお、被告人Cも、捜査段階においては自己の刑事責任を認めていたものであるが、公判に至りこれを翻し、認めれば執行猶予だが否認すれば刑務所行きだと言われたため認めたにすぎないなどと不合理な弁解をし、その他、警察が捜索に入ったから被害者が発生したなどと捜査に対する非難を述べ続けているのであって、反省の態度が見られない。

以上のように、Cに関する情状も悪質で、共犯者として既に判決を受けているKKC役員と同程度、又はそれ以上の重い刑事責任は免れないというべきである。

四  他方、被害者らはいずれも、非常識ともいうべき極めて高利率の配当にひかれてKKCに加入したものであって、いかに巧妙な話術等に惑わされたとはいえ、それ相応の落ち度があることは否定できないこと、被害者らには破産財団から申込金の一割程度の配当があり、若干の被害回復がなされていることは、被告人らのためにしん酌すべき情状といえよう。

しかしながら、これらの諸情状を十分考慮しても、被告人らの刑事責任が重いことに変わりなく、被告人らよりも先に分離を希望して判決を受けた者の量刑の実情等をも勘案すると、主文掲記の刑に処するのが相当である。

(裁判長裁判官長岡哲次 裁判官高津守 裁判官細谷泰暢)

別紙

犯罪事実一覧表(判示第一、第三、第四の関係)

日付は、いずれも平成八年である。

詐取の「方法」欄記載の事務所及び口座はそれぞれ次の事務所及び口座を示す。

「KKC事務所」~東京都港区赤坂<番地略>所在の三豊赤坂ビルKKC事務所

「A名義口座」~同区赤坂<番地略>所在の株式会社第一勧業銀行赤坂支店のKKC代表A名義の普通預金口座

「ケイケイシイ名義口座」~同支店の株式会社ケイケイシイ名義の普通預金口座

「金額・名目」欄の「ゴールド一口」等の記載は、当該コース名と口数の申込金名目であることを示す。

番号

被害者

欺もう行為

詐取

行為日

欺もう文言

詐取日

方法

金額・名目

1

X17

二月二二日

①ゴールドコースの場合は、一〇〇万円支払うと、純金製の小判の取引により利益が出て、結局、登録日から二〇日ごとに現金四一万円が五回にわたってもらえ、申込金も返還されるので、一〇〇日間で二〇〇万円以上の利益になる。解約にも応じて即申込金を返還する。

②国際電話のプリペイドカードを販売し、それに阪急グループが参入するので、ものすごくもうかる。

③中国の宜昌市にビルを一三億円で買ったが、ものすごいインフレで、もう二〇億円になっている。

④韓国の木浦の工場でテレビや温冷蔵庫を造る。既に住友から大量に注文が来ており、マツダ等も入れたいと言っている。

四月九日

Yを介してKKC事務所に持参

一〇〇万円

ゴールド一口

<以下省略>

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